経理

会計士に税効果会計に対する素朴なギモンをぶつけてみた

キリオは簿記の学習で、「税効果会計」が一番理解するのが難しい分野であると考えています。
税効果会計の理解を難しくさせる要因の一つは、まず用語や概念がそもそも難解であること。そして、もう一つは、会計と税務の両方を知らないといけない点であると考えています。
以前、元上司が、実務で法人税の申告書を作成することで、税効果会計の意味がはじめてわかってくると言っていました。確かに、元上司が述べていたとおりかもしれません。
簿記の初学者の場合、必ずしも実務経験がある訳ではありませんし、法人税申告書の作成のイメージがなかなかわかないものです。
簿記の初学者は、税務の知識や実務経験もありませんし、ましてや法人税の申告書を作成する機会もありません。当然、税効果会計を理解するには高い壁があるように思えます。
かくいうキリオも、簿記の勉強をしましたが、税効果会計を学んだ当時、よく理解できていたとは言い難く、理解度は怪しいものでした…。
実際、実務経験を通じ、「あ、こういうことなのかな…」と、ようやくおぼろげな輪郭をつかめた印象です。
一方で、税効果会計の輪郭をつかむと、税効果会計って、そもそもなんでやるの?という疑問も生まれました。
思いつたギモンを専門家についつい興味本位で聞きたくなり、お世話になっている会計士に時折、「税効果会計は、なんでやるのでしょうか?」と聞いてみることにしています。
この記事では、税効果会計について、実務経験を通じ理解してきたこと、ある会計士から教えてもらったことを交えながらお伝えできればと思います。
税効果会計に関して理解を深められたい方、また、キリオのように、なんでこんなことやるの?と思われている方向けにお届けできればと思います。

この記事でお伝えしたいこと

税効果会計が分かりにくいのは、税務の知識も必要なうえ、理論が後付けでできた背景があるようです。また、多くの新しい会計基準が、国際会計基準の影響を受け、貸借対照表からスタートする見方であるのと同様、税効果会計の「資産負債法」も同様に影響を受けている可能性があります。

税効果会計の目的

「税効果会計」ですが、そもそも何であり、目的とはなんでしょうか?
「企業会計基準適用指針第28号 税効果会計に係る会計基準の適用指針」の6「税効果会計の目的」を読みますと、以下のように述べられています。

 税効果会計は、企業会計上の資産又は負債の額と課税所得計算上の資産又は負債の額に相違がある場合において、法人税等の額を適切に期間配分することにより、法人税等を控除する前の当期純利益と法人税等を合理的に対応させることを目的とする手続きであるとされている。

上記の一文を普通に読んで、簡単に理解できる人ははたしてどれくらいいるのでしょうか?
「法人税等を控除する前の当期純利益と法人税等を合理的に対応させることを目的とする手続き」というところはまだ良いとしても、「法人税等の額を適切に期間配分すること」や「企業会計上の資産又は負債の額と課税所得計算上の資産又は負債の額に相違がある場合」について、税効果会計を理解したいと思っている人が読んだところ、正直、なんのこっちゃ?かと思います。
基本的に、法人税等は「課税所得」に基づき計算されますが、会社が行った決算に対し、必要な税務調整を行いますが、会社の決算に対し税額を計算していくという前提を「確定決算主義」といいます。
会計基準の適用指針にある「税効果会計の目的」を含め、税効果会計を理解したい人には、「法人税を計算する前提」としての「確定決算主義」をまず知っておいた方がよいと、キリオは考えます。

確定決算主義

原則として、損金経理を条件として、株主総会の承認または社員総会の同意その他これに準ずる機関の承認を受けた決算上の確定決算利益を基礎とし、税法上の規定により修正して課税所得を誘導計算する考え方

税法で「損金」は、①売上原価、②販売費及び一般管理費など、③資本等取引以外の損失をいいますが、「損金経理」は、確定した決算において費用または損失として経理することです。
一方で、税法は、課税の公平の観点から「別段の定め」を置いており、会社が費用として計上したものは、すべて損金にすることを認めておらず、会計上で費用として計上しているが、「その全部を損金としない」または「その一部を損金としない」という制限を設けています。
たとえば、減価償却のような内部取引は、損金経理をすることが条件であり、決算時に減価償却費として計上しなければ、減価償却費の損金算入は認められません。
なお、損金不算入、一定額を超えたら損金不算入、損金となるものの例は、主に以下のようなものがあります。

全額損金不算入なもの 資産の評価損、法人税及び住民税
一定額を超えたら損金不算入になるもの 減価償却費、役員報酬、交際費、寄付金、引当金の繰入額
損金になるもの 売上原価、通常の費用、支払利息、雑損失 など

上記のとおり、仮に「全額損金不算入」、「一定限度を超えたら損金不算入」の「申告調整」が必要でないならば、会計の「税引前当期純利益」と税法の「課税所得」は、基本的に同額と考えられます。
しかし、税法は課税の公平性を重視する都合、「申告調整」がないのは、税務署が許すはずがありません。
なぜなら、仮に会計処理を無調整でそのまま税法上の「損金」として認めてしまえば、誰も税金なんて払いたくないはずですから、好き勝手自由にみんな経費を上積みするでしょうし、税金を抑えようとする行動をとるはずです。
ですので、税法は、きちんとした手続きを踏んだ会社の自主的な経理処理を一定程度認めつつ、みんなが好き勝手に経費を計上することを防ぐべく、「全額損金不算入」「一定限度を超えたら損金不算入」の「申告調整」を行うよう求めています。
このように確定決算主義に基づき申告調整を行う以上、会計上の「税引前当期利益」と法人税の元の「課税所得」が同額になることはありません。
もし分かりにくければ、会計上の「税引前当期利益」と法人税の「課税所得」にそれぞれ「同じ税率」を乗じた「税額」が一致しませんので、会計上の「税引前当期利益」と法人税の元の「課税所得」が同額にならないということは、明らかではないかと思います。
「税引前当期純利益」「課税所得」に基づく「税額」が乖離する点を踏まえれば、「税効果会計の目的」にある「法人税等を控除する前の当期純利益と法人税等を合理的に対応させる」という意味合いを、なんとなくご理解いただけるのではないでしょうか。

当期純利益と課税所得が同額ではないため、税効果会計で調整するということなのですね

資産負債法と繰延法

「税効果会計の目的」に目を通しますと、「企業会計上の資産又は負債の額と課税所得計算上の資産又は負債の額に相違がある場合において」と書かれています。
「企業会計基準適用指針第28号 税効果会計に係る会計基準の適用指針」をさらに読み進めますと、税効果会計の前提には、「資産負債法」「繰延法」があり、会計基準としては、「資産負債法」を採用しているといいます。

 税効果会計基準では、税効果会計の方法として資産負債法によることとされ、会計上の資産又は負債の額と課税所得計算上の資産又は負債の額に差異が生じている場合において、法人税等の額を適切に期間配分することが定められている。

「企業会計基準適用指針第28号 税効果会計に係る会計基準の適用指針」の88「税効果会計の方法」

税効果会計は、資産負債法を前提としているのですね!

では、「資産負債法」と「繰延法」とはそれぞれどのような考え方でしょうか?
「企業会計基準適用指針第28号 税効果会計に係る会計基準の適用指針」の89には、資産負債法と繰延法について、以下のように記載されています。

資産負債法

資産負債法とは、会計上の資産又は負債の額と課税所得計算上の資産又は負債の額との間に差異が生じており、当該差異が解消する時にその期の課税所得を減額又は増額する効果を有する場合に、当該差異(一時差異)が生じた年度にそれに係る繰延税金資産又は繰延税金負債を計上する方法である。
したがって、資産負債法により計上する繰延税金資産又は繰延税金負債の計算に用いる税率は、一時差異の解消見込年度に適用される税率である。

繰延法

繰延法とは、会計上の収益又は費用の額と税務上の益金又は損金の額との間に差異が生じており、当該差異のうち損益の期間帰属の相違に基づくもの(期間差異)について、当該差異が生じた年度に当該差異による税金の納付額又は軽減額を当該差異が解消する年度まで、繰延税金資産又は繰延税金負債として計上する方法である。
したがって、繰延法により計上する繰延税金資産又は繰延税金負債の計算に用いる税率は、期間差異が生じた年度の課税所得計算に適用された税率である。

難しい概念がまたまた出てきてしまいました…。
「資産負債法」と「繰延法」とは、どのような違いがあるのでしょうか?
上記の「資産負債法」と「繰延法」の違いを理解する上で、二つのポイントが出てきたように思えます。
ひとつは「一時差異と期間差異の違い」、もう一つは用いる「税率の違い」です。

一時差異と期間差異の違い

一時差異と期間差異とは、それぞれ読み解きますと、以下のとおりで、

一時差異

会計上の資産又は負債の額と課税所得計算上の資産又は負債の額との間に差異が生じており、差異が解消する時にその期の課税所得を減額又は増額する効果を有する場合の差異

期間差異

会計上の収益又は費用の額と税務上の益金又は損金の額との間に差異が生じており、損益の期間帰属の相違に基づく差異

となります。

しかし、「一時差異」と「期間差異」の定義めいて書かれてはいますが、まだよく分からないというのが、本音ではないでしょうか。
少なくとも、読み取れることは、資産負債法の「一時差異」は、会計上の資産又は負債と課税所得上の資産又は負債を言っているのに対し、繰延法でいう「期間差異」は、会計上の収益又は費用の額と税務上の益金又は損金を指している違いであるという点については、ご理解いただけるのではないかと思います。
では、「一時差異」と「期間差異」とはどう違うのでしょうか?
「企業会計基準適用指針第28号 税効果会計に係る会計基準の適用指針」には、「一時差異と期間差異」の違いについて、両者の違いについて記述がありますので再びご登場いただきましょう。

 資産負債法における一時差異と繰延法における期間差異の範囲はほぼ一致するが、有価証券等の資産又は負債の評価替えにより直接純資産の部に計上された評価差額は、一時差異ではあるが期間差異ではない。なお、期間差異に該当する項目は、すべて一時差異に含まれる。

キリオなりの乱暴な解釈ですが、一時差異と期間差異について両者に大きな違いはなく、ほぼ一致すると言っています。ただし、「有価証券等の資産又は負債の評価替えにより直接純資産の部に計上された評価差額」については、一時差異であるといっているのです。

一時差異と期間差異は、結局ほぼ同じものですが、有価証券の評価差額だけは一時差異に属するということですね

資産負債法と繰延法における「税率」の違い

また「資産負債法」と「繰延法」では、用いる「税率」の違いでも違いがあるようです。

資産負債法の税率

一時差異の解消見込年度に適用される税率

繰延法の税率

期間差異が生じた年度の課税所得計算に適用された税率
「資産負債法の税率」は解消年度に適用される税率を用い、「繰延法の税率」は生じた年度の課税所得に適用された税率を用いるのですね

「資産負債法」と「繰延法」の違いのまとめ

「資産負債法」と「繰延法」の両者の違いについて、一旦、まとめましょう。分かりやすくまとめますと、以下のとおりに整理されるのではないかと思われます。

資産負債法 繰延法
差異 会計上の資産又は負債の額と課税所得計算上の資産又は負債の間の差異 会計上の収益又は費用の額と税務上の益金又は損金の間の差異
税率 一時差異の解消見込年度に適用される税率 期間差異が生じた年度の課税所得計算に適用された税率

なお、「資産負債法」と「繰延法」の違いは、上記のとおりですが、ここでキリオの解釈も交えご説明したいと思います。

「一時差異」と「期間差異」の違いは、「別表五」からか「別表四」に着目したかの違い

「一時差異」と「期間差異」は、「有価証券等の資産又は負債の評価替えにより直接純資産の部に計上された評価差額」を除けばほぼ違いがないことから、「一時差異」でいう「資産負債法」の「会計上の資産又は負債の額と課税所得計算上の資産又は負債」とは、法人税申告書上の「別表五」(税務上の貸借対照表)に着目した視点であり、「期間差異」でいう「会計上の収益又は費用の額と税務上の益金又は損金の間の差異」とは、法人税申告書上の「別表四」(税務上の損益計算書)に着目した視点であるといえます。
結局、別表五か別表四のどちらから見たかによって、一時差異か期間差異の違いがあるように思えます。

 「一時差異の税率」は「将来的」、「期間差異の税率」は「現時点的」

用いる「税率」については、資産負債法における税率は、一時差異の解消見込年度に適用される税率である点で「将来時点」的です。
「一時差異」の税率が「将来的」的であるのに対し、繰延法における税率は、期間差異が生じた年度の課税所得計算に適用された税率である点で「現時点」的であるという違いがあるようです。

そうか。一時差異は「別表五」的な視点で、期間差異は「別表四」的な視点なのですね

税効果会計をめぐるキリオが考えるギモン点

キリオは、上記のとおり税効果会計を解釈してきたつもりですが、一方で、2つのギモンを持っています。

税効果会計に対する素朴なギモン

  1.  そもそも永久差異があるため、法人税等を税引前当期純利益で除しても実際に理論的な税率になりません。理論的な税率にならないにも関わらず、なぜ税効果会計では合理的にすることにこだわるのか?
  2.  税効果会計は、企業会計上の資産又は負債の額と課税所得計算上の資産又は負債の額に相違がある場合において、法人税等の額を適切に期間配分する手続きと言いますが、そもそも表に出ない課税所得計算上の資産又は負債に対して、なぜ会計上で手当てする必要があるのか?

税効果会計を適用した場合の税率について

「税効果会計の目的」は、「法人税等を控除する前の当期純利益と法人税等を合理的に対応させる」ことと言います。
しかし、実務的には、損益計算書で表示される法人税等を税引前当期純利益で除しても、おおむね30%という理論的な税率(実効税率)に近くなることはありません。
理論的な税率に近づかないのは、「全額損金不算入」や「一定限度を超えたら損金不算入」といった、税務上の収益である益金や経費である損金に認められない、いわゆる「永久差異」が影響しているためです。

永久差異
会計上は費用または収益として計上されるが、課税所得の計算上は、税務上の収益である益金や経費である損金に永久に認められない項目
例 役員報酬の一定額を超えた金額、交際費、寄付金など

税務上の収益である益金や経費である損金に認められない永久差異が、会計上の費用として一定程度含まれている以上、税引前当期純利益と課税所得の金額が、期間のズレを考慮したとしても、税引前当期純利益と課税所得の金額が同額になることは永久にありません。
税引前当期純利益と課税所得の金額が永久差異により金額が合わない以上、法人税等を税引前当期純利益で除したところで、「理論的な税率」には近づかないのです。
「税効果会計の目的」は、法人税等を控除する前の当期純利益と法人税等を合理的に対応させると建前では言うものの、永久差異が必ずある以上、本音では合理的に対応することはありません。
このように建前で合理的に合わせるといいつつ、本音は合理的に対応しない点に、キリオは釈然としないような、よくわからないモヤモヤさを感じてしまうのです。

会計上の資産又は負債の額と課税所得計算上の資産又は負債の額に相違について

同じく「税効果会計の目的」において、「企業会計上の資産又は負債の額と課税所得計算上の資産又は負債の額に相違」と書かれています。
経理の仕事をすると分かりますが、会計上の資産又は負債は「貸借対照表」に出るものの、課税所得計算上の資産又は負債は、「法人税等の申告書」を除き、表だって出ることはありません。
表に出ない課税所得計算上の資産又は負債の額に対し、法人税等の額を適切に期間配分することにより、なぜ、法人税等を控除する前の当期純利益と法人税等を合理的に対応させる必要があるのか、今一つ釈然しません。
(退職給付会計のように、退職給付債務のオフバランス部分を引き当てるという意味と同様であるならば、まだ理解はできます。)
また、仮に、法人税等の額を適切に期間配分することが、財務諸表の利用者に有益な情報を与えるという理由ならば、税効果会計の目的としては理解できます。
しかし、表に出ない課税所得計算上の資産又は負債の額を、繰延税金資産及び繰延税金負債として会計上で調整したところで、果たして何の情報を提供しているのか、キリオにはよく分かりません。

割り返したところで、そもそも理論的な税率にならない他、税務上の資産・負債が表に出ないのになぜそこまで調整が必要なのか?という点ですね

会計士に対して素朴なギモンを聞いてみた

会社でお世話になっている会計士に対して、忙しくないときに、税効果会計についての素朴なギモンを聞いてみました。

「そもそも、永久差異があるため割り返した税率が実効税率に対応しない」にもかかわらず、そこまで「法人税等を控除する前の当期純利益と法人税等を合理的に対応させること」にこだわることに意味があるのか?

「企業会計上の資産又は負債の額と課税所得計算上の資産又は負債の額に相違がある場合」というが、そもそも「課税所得計算上の資産又は負債」は表に出てこない。
表に出ない内容にたいして、なぜそこまで調整することにこだわるのかよくわからない。

ある会計士からの教えてもらったこと

キリオが質問して、ある会計士から教えてもらった意見は、以下のとおりでした。
なお、ポイントだけを記しますが、あくまで会計士個人の意見であり、全ての専門家を代表するものではない点をご了承ください。

会計士の答え

  1.  税効果会計については、税効果会計を適用する意味があるか聞かれれば、個人的にはやりすぎで、適用する意味は感じない。
  2.  税効果会計の理論とは、後付けで作られた背景がある。
  3.  理論的には、現代の会計は「損益計算書が中心」で、貸借対照表は、会計期間と会計期間をつなぐ「連結環」にすぎない位置づけ。しかし、国際会計基準の影響が強くなったことから、貸借対象表の資産・負債から見て、損益計算書の金額が決まる傾向が強まっている。おそらく、税効果会計の資産負債法も同様なのではないか。

では、会計士の意見について補足しましょう。

税効果会計の理論が、後付けで作られたという背景

バブル崩壊後に不良債権処理に苦しめられた銀行が、自己資本比率を高めるためにとられた会計処理が「税効果会計」でした。
自己資本とは、資産と負債の差額である純資産ですが、当時、銀行は不良債権処理にあたり、会計上、不良債権に対して多額の貸倒引当金を計上が求められました。
しかし、多額の貸倒引当金を計上するということは費用が増えますので、当然利益が圧迫され、自己資本は減少します。さらに、貸倒引当金を計上すれば、税務上はただちに「損金」に認められません。
貸倒引当金が「損金」として認められるには、実際に債権の貸し倒れが発生したときになりますが、「税効果会計」を適用すれば、先に納付した法人税等を「前払税金」として「繰延税金資産」が資産計上できるわけです。
つまり、貸倒引当金の計上で、「損金」計上が認められるより早いタイミングで法人税を納付しますので、前払税金として繰延税金資産である資産を積み増せば、資産と負債の差額である純資産も膨らみ、自己資本比率が高まるというカラクリです。
その後、何でもかんでもやたらに繰延税金資産を積むべきでないということになり、評価制引当額や会社のタイプ別など、税効果会計に関わるルールが理論化されていったとのことです。
税効果会計は、実務で先に適用され、後から理論が整備された背景というのをご理解いただけたのではないでしょうか。

税効果会計の理論は後から整備された背景があるのですね

国際会計基準の影響

貸借対照表の役割とは、元々、単なる「財産目録」の位置づけでしたが、発生主義の登場により、現代の会計は、損益計算書中心の発想です。
損益計算書中心の世界の貸借対照表の役割は、財産目録ではなく、会計期間同士をつなぐ「連結環」という位置づけにすぎなくなります。「連結環」とは、聞きなれない言葉かもしれませんが、会計期間と会計期間をつなぎとめる「わっか」というイメージです。
つまり、損益計算書の損益が先にあって、貸借対照表は「おまけ」にすぎないという立場です。
ところが、上記の前提が、国際会計基準の影響により、「損益計算書中心的なものの見方」から、「貸借対照表からスタートする発想」へ変わりつつあるというのです。
例えば、「収益認識会計基準」では、契約資産と契約負債など貸借対照表から損益計算書の収益を認識・測定しようとしますし、「退職給付会計」も当期に計上すべき貸借対照表の引当金を測定し、損益計算書上の費用が決まってくるイメージです。
また、「包括利益」は、損益に加え、資産と負債の動きを反映させようとしますので、貸借対照表からの視点が強まったものといえます。
これ以外でも、「減損会計」や「資産除去債務」なども、きわめて「貸借対照表から発想する会計基準」である例が多くなってきていることを、お分かり頂けるのではないでしょうか。
このように「貸借対照表からの視点」の影響は、税効果会計にも影響していると考えられます。特に、「資産負債法」は、いわゆる「貸借対照表から発想する立場」に基づいており、国際会計基準の影響を受けているのではないかとのことでした。

資産負債法がとられる背景には、国際会計基準的な視点が影響しているわけですね

「会計士に税効果会計に対する素朴なギモンをぶつけてみた」のまとめ

この記事では、税効果会計を理解しようとするには、税務の背景を理解する必要あることを述べてまいりました。
そして、税効果会計は、法人税等を控除する前の当期純利益と法人税等を合理的に対応させることを目的とする手続きですが、資産負債法の立場をとっています。
キリオの私見ですが、資産負債法は、法人税申告書における貸借対照表である「別表五」に着目した見方であり、資産負債法を取る立場は、従来の会計基準の立場ではなく、国際会計基準的な影響を受けているものと考えられます。
一方で、従来の会計は、損益計算書中心的で損益項目がまず先にあって、次いで貸借対照表が決まるイメージでしたが、国際会計基準的な見方は、まず貸借対照表があって、資産・負債を見積った結果、損益が発生するという、そもそも発想が逆であることがうかがえます。
元々、会計は、見積りの世界ではありますが、国際会計基準の影響は、貸借対照表からスタートする手前、見積りの要素が高まっている傾向があるようです。
当期純利益から包括利益への移行と言われるように、会計自体が、単なる「儲かったか損したかどうかの損益計算をするもの」から、「貸借対照表の資産・負債の動きや見積りによる要素が高まっている」という点について、現在の動きというのは行き過ぎではないか?という批判もあるようです。

会計は、提供する利益情報に対して会計責任を負い、経営者は、資本提供者に受託責任を負っています。経営者は、単に要求される情報を株主に提供するだけでなく、提供する情報に対してしっかりと説明責任を果たすことが求められます。そのためには、事実にもとづく客観的で正確な、誰もがいつでも検証できる情報を提供することが大前提です。情報の信頼性です。提供する情報に決して予測と現実の非対称性があってはなりません。

渡邉 泉著 『会計学の誕生 ー複式簿記が変えた世界』 岩波新書 P.186

キリオは、会計士でもなければ、会計学者でもありませんので、労が多い割には効果がよく分からないものはやる必要がないなど声高に主張するつもりもありませんし、損益計算から離れて見積りの前提が濃くなる要素が良いのかどうか詳しくは分かりませんが、少なくとも税効果会計も国際会計基準的な見方に影響を受けているならば、税効果会計のあり方についても諸々理解が進むのではないでしょうか。

最後までお読みいただきありがとうございました。

ABOUT ME
キリオ
就職氷河期に社会人となり、某メーカーで経理を担当している、どこにでもいる中年サラリーマン。 過去2社の転職を経てようやく3社目にして、念願であった、学生時代に入りたかった製造業(会社ではない。)への転職を果たしました。 社会人になって読んだ「投資戦略の発想法」と「金持ち父さん 貧乏父さん」に感銘を受け、経済的独立を目指すべく、10年以上個人投資家を続けてきています。零細ですが、株式投資から始まり不動産投資を行います。 学生時代以来、自分の中では「組織」と「個人」のあり方がテーマではあるものの、なかなか周囲と共有できないことが多いと感じられ、また、発信力を鍛えることが大事と思い、このブログを始めるキッカケの一つに。 キリオノートは雑記ブログですが、キリオ自身、お金の話が好きです。 キリオノートは、「お金」の特化ブログではないものの、友達の前や職場であまり表立ってお金の話ができないこともあり、どうしてもお金系の話題が多くなるかもしれません。 一方で、仕事、投資、また、読んだ本や考えたこと、自分が迷い悩んできたこと、経験などを振り返りながら、試行錯誤しながら、モヤモヤした頭を整理する場です。 趣味は映画(現在は子育てに追われ停止中…)、読書、料理など。 性格は、細々継続していく地道なタイプ。腹筋運動・腕立て・軽いスクワットを続けて、学生時代から体重だけはほぼ変わず。(自慢できるオナカではありませんが、腹筋運動はもうすぐ30年。)そこだけ取り柄かもしれません。 保有資格は、日商簿記1級、証券アナリスト、国際公認投資アナリスト 現在、子育て真っ最中。子どもは可愛いものの、自分の時間がなかなか取れないのが今一番の悩み。 一男一女の父。